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2014.5.2
場所の物語、本の物語。
(お客さん)
「すいません、後ろのスリッパに書名と、値段と、あと…地名?新潟とか、滋賀とか京都とか…書いてあるんですけど、これ何ですか?」
(店主)
「スリッパ…にですか…」
(お客さん)
「あー!ごめんなさい!私ったら!スリップです!スリップ!付箋
!」
気づかない方も沢山いるけど、
旅する本屋 放浪書房の旅本達には、書名、値段、そして「原産地表示」が書かれている。
産直野菜ではないけど、僕が全国の町々を旅して、一冊一冊見つけてきた旅の本達。
同じタイトルでも、これは福島、こたっちは京都と「原産地=本が旅に出た街」はてんでバラバラだったりする。
「こんな事して、何か意味あるんですか?」
「あはは!意味は無いです!
でも、物語はあるんですよ。」
そんな格好良い決めゼリフを用意しているのに、一度も使った事が無い。
ウチのお客さんは皆、粋で遊び好きなのだ。
「私、京都大好きだから、こっちの本買おう☆」なんておもいおもいに楽しんでくれる。
初っ端から脱線しちゃった。
本線に戻ります。
4月29日、呉の音戸町で一箱古本市「くれブックストリート」があり、その中の「旅する古本屋さん」という広島、岡山、島根、香川の本屋さん、古本屋さんの集まるという企画に参加した。
そこで、主催の黒星さんが紹介してくれた女性がいた。
江田島という隣の島で、築百年の洋館を手入れして再生して、ギャラリーやワークショップやイベントをやっているという。
正直、ここまではよく聞く話。
先日も松江の築130年の古民家をリノベーションしてイベント、カフェ、農家民泊、ゲストハウスをしている方々【みんなのおうち】に出会っていたので、そうかという感じだった。
https://m.facebook.com/minnanoouchi?_rdr
「築百年の洋館を掃除していたら、
古い本が段ボール何箱も出てきた」
ちょっと興味が沸いてきた。
たまたま(何てタイミングでしょう)
居合わせた島根県松江の私設図書館「曽田文庫」のメンバーで「湖鹿堂」店主の森田さんが
http://sotalibrary.will3in.jp/member/
「とみー、良い本あるんじゃない?見てきたら?」
何てそそのかす。
いえ、折角ですが、この後のスケジュールが…真っ白だー!!笑
「じゃあ、遊びに行きます」なんて即答してしまった。
これも何かの縁なんだろう。
翌日は呉市内の昴珈琲さんの前で出店。次の日、朝から大和ミュージアム見てから橋を二つ渡り江田島に向かった。
海上自衛隊第一術科学校の程近く、狭い小さな坂の路地を上がるとおっ!と目を引く白い洋館が見えてきた。
今でさえ、このインパクト。100年も前だとまだ周りは茅葺き屋根だよね。目を引いたんだろうな。
入り口には
「ぐるぐる海友舎プロジェクト」と書かれた木のA看板。
わわっ!こいつはきっと楽しいぞ☆
旅する本屋のアンテナがそう言ってる。
中から出て来た2人の女性。
1人は「ぐるぐる海友舎プロジェクト」代表の南川さん。
もう1人の女性は@hatsupii (はつ)さん。近くに住んでいて、今日は掃除で発掘された古い本を見に遊びに来たという。
「音戸での放浪さんの店で売ってたオバケダイガク気になって!買いそびれちゃったんですけど、後で見れますか?」
http://obakedaigaku.net
ええ、ええ、ご覧いただけますとも笑
「今日は“本づいて”ますね」と南川さん。
早速中を案内してもらう。
建てられたのは明治後期。
「旧海軍兵学校下士卒集会所」という名で下士官の娯楽兼福祉施設だったらしい。
終戦後民間に払い下げられ、洋裁学校を経て民間の会社が2012年まで実際に使われていたらしい。
詳しくはコチラをどうぞ
→http://www.kaiyousya.com
築百年。
明治、大正、昭和、平成
文字で書くとこんなもんだけど、この建物にはそこ関わった人たちの物語がしっかり残っていた。
外の箱だけを遺して中の物をすっかり処分して、まるっきり変えてしまうのではなく、出来る限り、残そう、生かそう、次に繋げよう、楽しんでもらおう。
その思いが彼女からも海友舎からも伝わってくる。
玄関扉のガラスに描かれた消えかかった桜と錨の海軍モチーフ
庭の干上がった十字型の池
基礎のレンガの鉄製の換気口
不思議な形の階段の踊り場
旧いビリヤード台、海軍時代の2段ベッド
帽子やサーベルを下げる為の錆ついたフック
床板の軋み、壁の傷
一つ一つの物語に想いを馳せて時を遡るのも楽しいし、この舞台を使って音楽やアート、クラフト、新しい感性を演出していくのも楽しいな。
何よりさ、まぁ、彼女が楽しそうに話すんだ。(笑)
僕がなんか見つけると
「ああ、いい振りありがとうございます!」と南川さんがそこに隠された物語を解き明かしてくれる。
そして、脱線、脱線。
「何の話してたっけ?」と2人で我にかえる。
ああ、そうそう、
「築百年の洋館を掃除していたら、
古い本が段ボール何箱も出てきた」
だった。
ぱっと見ただけでも昭和30年代〜70年代の写真大衆雑誌、小学校の教科書や貴重な海軍資料や関連の本も沢山あるらしい。
放浪書房としては、この島に生きた人たちの生活が感じられる雑誌、教科書にぐっと来た。
あの人の店の雰囲気なら、お客さんならきっと楽しんで貰えるんじゃないか?
知り合いのつてで行き先を見つけてあげられるかもしれない。
程度も悪いものもあるが、
売れば、もしかしたら幾ばくかのお金になるかもしれない。
でも、きっとそうじゃない。
この本達が、売られていったら、買われていったら、古書としての価値、誰か基準の市場価値の中で、それ以上でも、それ以下でもなく、知らない誰かの元に旅だっていく。
その先に、物語があるかもしれないけど、
南川さんも、海友舎プロジェクトの皆も、この島で、この建物のそばで今も暮らしているかもしれない本の持ち主も、一緒に物語を楽しむことも作っていくことも出来なくなってしまう。
それは凄く寂しい。
もったいオバケが出るよ。
物語のある場所に
物語のある本がある
物語を伝えてくれる人が居る
物語を一緒に楽しんで応援してくれる人がきっとあらわれる。
そう思えてならなかった。
僕の大好きな映画「フィールドオブドリームス」の言葉
「それを作れば彼はやってくる」
(If you build it, he will come.)
言うだけ言って、後はやれよという無責任なやつにはなりたくない。
放浪書房として、
旅する本屋として、
もし、相手が望むなら、自分を必要としてくれるのなら、お手伝い出来ることは何があるだろうか
放浪書房の旅で出会った色んな人やモノやコト、きっとヒントがあるはずだ。と
島を見下ろす高台で
海友舎と彼女の物語を読みながら考えてみた。
13:06 | 店主 | その他