ハチクロと旅本屋
放浪書房には色んな旅本が置いてある。
売れ筋もあれば、創業以来まったく旅立ってくれない本もある。
でも、不思議とそこに居てくれるだけで棚が締まるというか、「うんうん、分かってるじゃないか、君☆」
とお客さんと共感出来る本がある。
それがこれ。
「ハチミツとクローバー」
の6.7巻。
放浪書房ではこの2冊だけ置いてある。
大好きだから全巻置きたいが、如何せん小さな屋台の本屋。在庫数に限りもあるから、この2冊だけ置く事にした。
全10巻中の6.7巻。
売れる訳がない。
でも、置かない訳に行かない。
だって「旅する本屋だもん!」
不思議なもんで、どんな本もいつかは必ず誰かの元に旅立っていく。
遠くの知らない街で、その場面に立ち会うと、
「この人に、この本を届ける為に俺は旅してたのかも」と感慨に浸ることしばしば。
この2冊もきっと、いつかは。
え?ハチクロ、どんな旅かって?
以下、
(某リトルプレスに書かせて頂いた文から、)
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ぎっくり腰をやってしまった。
予想外に重く、1週間寝たきり。ひと月経った今もリハビリが続いている。経済活動も放浪活動もストップ。心的には元気なのに、身体がいう事きかない歯痒さにはほとほと参った。
そんな時でも読めてしまう、いやそんな時だからこそ読みたい大好きな「旅本」がある。僕にとっては風邪の時の桃の缶詰的な存在だ。
「ハチミツとクローバー」(羽海野チカ著 集英社刊)
美大を舞台に登場人物全員が「片想い」という、甘酸っぱくて、胸がキュン!となる青春ラブコメディ。不意な台詞の一つ一つに「そうきたかぁ!」と唸らされ、そこかしこに散りばめられたギャグに笑わされる。ちなみにアニメ、ドラマ、映画にもなっている。
「青春こそ、旅!」なんて当県の森○健○知事のような台詞を言うつもりはない。ただ、全10巻のうちの6巻、7巻。この2冊にまたがるエピソードが、堪らんくらいの「旅」なのである。旅マンガなのである。
主人公の一人、竹本は就活に行き詰まる毎日。その日も特に収穫をえられぬまま、殺風景な下宿の部屋に帰ってくる。何も入ってない冷蔵庫を開けると「ブーンン…ン…ン」と「からっぽの音」を聞く。
《……空っぽだ》。
古いママチャリに乗り、竹本は下宿のアパートを飛び出す。

《小さい頃 買ったばかりの青い自転車にのって ある日 一度も後ろを振り返らずに どこまでまっすぐ走れるか 試した……今でも時々思い出す あの時 自分がしたかったのは いったい 何だったのだろう……》
ケータイも持たず、着の身着のまま。ポケットには財布だけ。見慣れた街並みを抜け、ペダルを漕ぎ続ける。街から町に、店も家も少なくなり、空が広くなっていく。海鳥の声と、潮の匂い…
《海だーーっていうか……どこの海ーー!?》
高3の時、僕も学校をサボって海を見にいった。通学に使っていたママチャリに乗り、千葉の九十九里浜まで走った。制服に通学カバン。お弁当と水筒を入れて、怪しまれないようにいつもと同じ時間に家を出た。「学校に行こうとして、道間違えて海まで来てしまった」職務質問された時の完璧すぎる言い訳に「俺、何だかカッコ良くねぇ?」と一人満足していた。
きゃー恥ずかしい(苦笑)
その後の彼の旅程を見ると、多分同じ房総の海だったんじゃないだろうか。
自分が今いる場所、今歩いている道が、別のどこかに、たどり着きたいどこかに確かに繋がっている。歩くのでも、自転車でも、一歩一歩、一漕ぎ一漕ぎの小さな積み重ねだけが、その距離を縮めてくれる。それを実感したかった。
20年近く経った今なら、そんなカッコいい理由を後付け出来るけど、その時はそんな事これっぽっちも考えてなかった。
あの頃の僕も、彼も理由なんてなかったんじゃないか。ただただ、脚が棒になるまでペダルを漕いで、そのままぶっ倒れて朝を迎える。変わっていく景色と、地図に記した通過済みの蛍光ペンのラインが自分が前に進んでいる事を実感させてくれる。
100円ショップと拾いモノで装備を揃え、ママチャリを旅仕様に改造していく。色んな人との出会いや経験が彼を旅人にしていく。
そして、北上を続ける。「日本のはじっこ」を目指して。
とにかく、細部の表現やエピソードがリアルで、彼と彼が旅で巡り合う人々の台詞や画がことごとく心に沁みる。旅心をこれでもか!ってくすぐる。物語の中の一つのエピソードを超えて旅の本として密度の高さがある。
夕飯を買いにちょっとそこまでが、旅に変わるのはそう難しいことじゃない。日常と旅の境界線なんてすごく曖昧だと思う。大切なのは、自分の足を交互に前に踏み出すだけで、どこへでも行ける。
という真実。いつ読み返しても新鮮な発見と共に思い出させてくれる。
今年の夏。放浪書房も特製の自転車屋台で旅に出る予定だ。衣食住を積んだ特製のトレーラーを引いて、本を売って、仕入れて、太陽光と車輪の回転運動を電気に替えて、日々の糧も得る「自給自走」の旅。
ずっと夢見ていた自転車の旅は僕自身の旅の原点でもある。
この二冊も是非、旅に連れ出そうと思う。わ
「からっぽの音」が聴こえなくなってどのくらい経つのだろう。
でも、相変わらず財布はからっぽのまま。
それでは、イイ旅を。
とみー
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今回の旅にも、勿論一緒です。たまに読み返してニヤニヤしています。
雨、降らなかった。
しばらく振りの京都鴨川。
もう少しおります。
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19:00 | 店主 | その他   

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