さよなら京都
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平安神宮で知り合った絵かきさんの話。
その日僕はそれまでの三条大橋側の京阪駅出口横の植え込みから、平安神宮や都メッセのある岡崎公園周辺に店を移していました。
これまでの場所が良くないって訳じゃないんです。
住めば都とでもいいましょうか。売り上げもそこそこ。
なのに移動したのは、その日から都メッセにおいて
「古本市」が開かれると知ったからです。
勿論、僕みたいな新米、しかも協会にも加盟していない者が出店出来ないことは百も承知です。
でも、そこは神出鬼没のゲリラ的販売?が信条の放浪書房です。
公園ならどっかでこっそりなんて事も出来るかも知れないし、それより何よりも、開催中に古本ファンが何万人と集まるんですもん。そのオコボレに与れる可能性大です!
コバンザメ戦法です。
さぁ、意気揚々とやって来たものの、出鼻をくじかれました。
僕てっきり野外イベントだと思ってたんですが室内。
しかも、会場周りにはバイトの整理員が巡回してるじゃありませんか。
あちゃーこれじゃ会場周りでこっそりて訳にはいかない。
まだ、開場前の9時50分。
三条大橋に戻り何事も無かったかのように
放浪書房 本日開店でーす☆てのもアリなんですが、僕も一応は本屋の端くれの端くれ。
今後の参考の為にと、見学していく事にしました。
掘り出し物の旅本をセドリ(あ、これについては後ほど詳しく)出来るかもしれないもんね☆
手荷物預かり所にキャリーカートを預け会場に入りました。
うーん。
なんというか静かな熱気です。
みんな食い入るように本を見つめ、聞こえてくる声といえば会場案内や注意を促す関係者のマイクパフォーマンス?のみ。
独特の雰囲気です。
旅本はなかなか見当たらず、あったとしてもイイ値段がついてたりします。
うわぁー放浪書房の倍の値段付いてる旅本があったりと、とても勉強になるもののセドリの成果は僅かに二冊でした。
どうも勉強になりました。
さて、三条に戻るのもありですが美術館、図書館が集まった静かな雰囲気のこの場所で放浪書房を開きたいなぁって。
どこか良い場所ないかなぁ。
お堀沿いの街路樹の下なんてどうだろう。
なかなかこれという場所が見つからないままウロウロしていると、図書館の前で絵を描いてるおじさんがいます。
その横には額に入った絵が並べられて売られています。
汚い程ではありませんが程よくくたびれたネルシャツにジャージパンツ。頭にはタオルを巻いています。
赤黒く日焼けした腕と顔。一心不乱に筆を走らせるおじさんにはなんとなく声がかけにくく、その雰囲気から鴨川に住む諸先輩方に間違いないようです。
あの、スイマセン。
僕も近くで売らせて貰ってもいいですか?
何売るの? 本?
ああ、別に構わないけど。
いわく。京都は縄張りが厳しいと聞いてたんです。
交番近いみたいですが、ここで売っていて何も言われないですか?
僕は言われた事ないけど、他の人は知らないよ。
文句言われるまで売っていて、言われたら出ていけばいいでしょう!
そうだろ!?
はい、ごもっとも。
作業を中断させてしまった事を謝って離れようとしたんですが、見事に捕まっちゃいました。
結構話好き?のようです。
路上で売る時の注意とコツ。
外国人と日本人の考え方の違い。
不況で売れ行きが悪いこと。
横浜だったらもっと売れる。金が貯まったら移動するつもりでいる。
昔は画廊や料亭の仕事もした事があり、シュワちゃん(ターミネーター)の側近に気に入られて一億の仕事もあったが、受けなかった。
今描いてる絵は600万の仕事だ。
そこまでの絵ってどのくらいのもんだろう。
絵を見て正直びっくりしました。
凄く素敵な絵なんです。
描いてるのは風景。
おじさんの座っている場所から見える山だったり、
京都の古い町並み、路地裏だったり、お寺だったり。
なんて表現したらいいんだろう。
きっとね、僕が死ぬとき
自分の生きた世界を改めて見たら、こんな風に見えるんだと思うんです。
現世と常世の間で見える幽玄の色。これなら欲しい人いっぱいいる筈です。
これが一枚1000円。
とてもじゃないけど割に合わないと思うんです。
あ、勿論安いって意味でね。
余計なお世話ですが、心配になって聞いてみるとおじさんいわく
全部カラーコピーとのこと。
コピー代が一枚50円。額縁が100円。一枚売れれば850円の儲け。幾らでも描けるよ。
おじさんは前歯の欠けたやけに白い歯を見せて笑います。
確かに印刷だけど、元は全部僕が描いてる。これを(原画)千円で売る奴がいたら馬鹿だよ!
印刷して綺麗に仕上がるように計算して描いてるんだから、コピー機は刷ってるだけだろ!?
おじさん、周りの人が振り向くくらいに声を荒げていきます。
皆何もわかっちゃいないんだよ!
こんだけのもん(絵)を勝手に刷ってくれる機械があったら教えてくれってんだよ!ある訳ないよ!?
一億出したって無理だろ!?そうだろ!?
そんな簡単な事もわかんない馬鹿ばっかりなんだよ!
おじさん。
馬鹿なのはおじさんの方だよ。
二日間おじさん見てたけど、絵を買ってくれた人にもお説教をします。
僕、なんか悲しくなりました。
おじさんがどんなに素敵な絵を描いても。
放浪書房がどんなにいい本を置いてあっても。
食べ物屋もそうですよ、
どんなに美味しい物を作ったとしても、それを理解してくれて、お金を出してくれる人がいて初めて商売になるんです。
勘違いしちゃ駄目だよ。
感謝の気持ちを持ってないとそれは一人よがりな悲しい物になってしまうんです。
おじさんが買ってくれたお客さんに心の底からありがとう。
また来て下さいね。って笑顔で言ったらきっとまた来てくれるよ。おじさんのファンになってくれる。
あんな素敵な絵を描くのに、すごく残念でした。
そしていい勉強になりました。
旅する本屋
放浪書房
本と人とを繋ぐ旅は始まったばかり。
ガケ書房の店長さん、
紫織ちゃん、ニノミヤさん、S石さん、momo164さん、米さん、こむらさきさん、Takaさん、 naoさん、 yuさん、 akira jさん、
テレビを見てくれた皆さん、放浪書房のブログに、道売りに遊びに来てくれた皆さん。
ほんとにどうもありがとう☆
実は、次回の京都店出店が決まりました。
七月十二日から十日間の予定です☆
あー多分また滞在日数延びちゃいそうな予感。
え?次は何処に行くって?うーん、何処でしょう?
あまり考えてないんですが、地元千葉や東京でも店を出したいとおもってます☆
旅、人、本の素敵な出会いを演出していく旅する本屋放浪書房をどうぞよろしく☆
18:23 | 店主 | 出店