トミとモト
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放浪書房を営んでいますと、思いがけない出会いの必然性というか、一冊の本の持つ意味や役割に驚く事があります。
1時を少し回ったくらいでしょうか。未だ売上は最初の300円のまま。
人通りは一時間に50人程度。
たまに中国か韓国の団体さんがやってくる程度。
引越しを考えてました。
あ、こんにちは。
良かったら広げて見ていって下さい。
白い短パンにランニングシューズ、リュック。
一眼レフのカメラを首から下げてこんがりイイ色に焼けたおやじさんがおっかない顔で立っています。
こちらには一瞥もくれることなくジッと本を睨んでいます。
お兄ちゃん、この本はこの値段で売りよる?
(あれ、高かったかな?ブックオフ程安くはないけどそれでも定価の半額以下なんだけど)
おじさんの手にしている本は
映画監督 大林宣彦が岩波ジュニア文庫から出した「ぼくの瀬戸内海案内」
尾道を舞台に数々の名作を生んだ著者が瀬戸内海としまなみ海道の島々を紹介していくという内容です。
実はこの本、去年のしまなみ海道歩き旅に持って行っきました。POPこそありませんが、内容はお墨付き★
それ、凄くイイ本ですよ。
そうアピールした途端、塞きを切った様におやじさんは話し出しました。
そうじゃろ!そうじゃろ!!エエ本なんよ!
あ、その本読まれた事あるんですか?
うん?いや!ない!! 
でもエエ本なんじゃ!!
毎年、春の彼岸にしまなみ海道を歩いて渡るイベントがあっての、毎年出よるんじゃけ。
え!?お兄ちゃんも歩いた事あるんか!?
ほーか、ほーか!
どこに泊まりよった?
野宿!?しかも歩きでこの荷物持ってか?!
エライ事しよるなぁ!!
よし!この本買う!
ありゃ!いけん!財布に150円しか入っとらん!
お兄ちゃんちょ待っとって!郵便局行って来るで!!
10分後、お金下ろして来てくれたおやじさん。
お買い上げありがとうございます。
この本、僕的には凄くお気に入りでどの街に行くにも持って行ってたし、ららぽーと店でも常に面出しでアピール。なのに売れない。誰かが手に取った気配もナシ。
やっぱり狭い範囲を特定した本は売りにくいんです。
一年近く売れなかった。
今回の旅でも最後まで持っていくのを迷っていました。何となく、「ボク
も連れて行ってくれよ!」そんな声が聞こえたのかもしれない。                                     だからきっと 、この本はおやじさんの元に行く為に今まで売れなかったんだ。
そう思えてしかたありません。
おやじさんが郵便局から戻るまで、
アルコールを浸したタオルと消しゴムで、表紙をピカピカに磨きました。
あのおやじさんならきっと大事に読んでくれるよ。
売れて嬉しい反面、ちょっぴり寂しい。
いい旅を。
お兄ちゃん!名前は何て言いよる!?
富永です!おやじさんは!?
わしゃ、元永じゃ!
トミとモトか!
何か似とるの!!
本当だね!
ほいじゃまたの!!
おやじさんも気をつけて!
あ、おやじさん!今度は来年の春しまなみ海道で会おうよ!!
おう!
おやじさんは笑って右手を上げてくれました。



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