2006.8.1
あの夜の橋の下
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こんばんは。旅する本屋放浪書房のとみーです。 これから書く話は京都で売り上げ最悪だった日の夜のお話です。 かなり、長いです。今月パケット代キツイんだよなぁ☆って人は読まない方がいいし。よんだからってあまりタメになるような代物じゃないです。でも、どうしてもblogに載せたかった。これを読んだ人の中には「何言ってんだこいつ!」って思う人もいるかもしれない。でも、この夜の出来事はきっと一生忘れられないから、ここに書きました。 放浪書房の一日の営業を終えてかなり残った在庫をキャリーに載せるといつも以上に重い足どりで御池大橋に向かって歩いていた。その日の売上は過去最低。ブログを見てお客さんが来てくれたり、同じ宿の
台湾人の男の子と三人で雨宿りがてらゲームをしたりと楽しい時間を過ごしたけど、商売的には惨敗。
8時近くまで粘ってみたが、売上を伸ばす事は出来なかった。
僕の少し先を薄汚れたバックやら黒ビニールの袋を満載した自転車をアキさんがゆっくり押す。
荷物の多い僕を気遣って後を振り向きながらゆっくり歩いてくている。
とみー寿司喰いにいこう。
あ、アキさん今日売上ヤバイからさ、もう少しねばってみるよ。
また今度誘ってよ。
半分本当。残り半分は?
いつも朗らかで優しいアキさんの目が少しだけ濁る。
とみー寿司行こう。うまい寿司屋あんねん。奢ったる。
いや、もう少し店やりたいんだ。
うんと言わない僕にいらついたのかアキさん店の前に停めた自転車に跨がる。
ほならここ居てや。
こうてきたる。とみー何が好きや?
えっと、じゃあ穴子。
よっしゃ穴子やな。
こうてきたる。待っててな。
30分後、戻ってきたアキさんの手には「かっぱ寿司」の袋があった。
全てが黒っぽいアキさんの荷物の中でその白い袋だけがなんだか場違いな気がした。
沢山の人達が行き交う三条大橋を通り鴨川ぞいを御池大橋に向かう。
楽しげに笑いあうカップル、チラシ配りのお兄さん、バンドの路上ライブ、そのファンであろう若い女の子達、スーツを着た仕事帰りのサラリーマン、家族連れ。
いつも以上に皆の視線が気になった。
彼らの目に、アキさんはどう映るのかな。僕はどう映るのかな。
ちょっと綺麗めなホームレス?見えなくもないね。
アキさんは今、御池大橋の下のビニールハウスを離れて三度の食事と眠る所、一日五本の煙草を支給してくれる施設に入っていた。
働く気はまんまんなんやで、若い奴には負けへん。
今日やて空き缶ぎょーさん拾ってきたしな。
でも仕事なんかないんや。
拾ってきた空き缶は週に一回の業者の回収で一キロ140円で売れるとのこと。今週の儲けは2700円。このお金は全部仲間のブンタさんにあげてしまったという。ブンタさんは一週間前からアキさんのビニールハウスに一緒に住むようになった。ブンタさんの綺麗な標準語から京都の人間じゃないのは解る。
何処から来たのか、どうしてホームレスになったのか。 そんなん別に気ぃせんよ。 アキさんは言う。 ブンちゃんは大工やら電気工事やら技術持っとるし、小説だって書きよる。
ほんとエエ奴や。
でもブンちゃん文無しやから、ワシにしてやれるこというたら、このくらいしかできんもん。
さっきから、そのブンタさんをアキさんはしきりに心配していた。
昼頃から見当たらへんねん。どうしたんやろ?
ワシおらんようなって変な奴に因縁つけられたとちゃうかな。
学校や職場、時には家庭と人は自分を取り巻く人間関係に煩わしさを覚える事がある。
たとえ一時的にその環境から逃げたとしても「ヒト」という生き物が「人間」である為にはその中で生き続けなくてはならない。
「ヒト」の「間」で生きるから「人間」なのかな。 人間関係から生じる問題はホームレスの世界にも間違いなく存在する。
安定した収入も保険も強い風雨に耐える家もないものにとって、自分の僅かな財産、領土、そして生命を守る為には仲間同士困った時にお互い助け合う」ことが不可欠になる。その為、近しい物同士は数人程度のコミュニティを作って暮らしている。
そこは収入のあるものが無いものに食べ物を与え、その代償として洗濯等の労働で返すなどの相互の助け合いで成り立っている。
そして数が集まることで外部からの力に対抗できるようになる。
まるっきり自由気ままに見えても秩序は間違いなく存在していて、それを作っている人間は力ある人間である事も変わりないんだ。
ぱっと見、アキさんはホームレスには見えない。
独特の異臭、風体をしている訳じゃない。
奇異な仕草や行動をとる訳でもない。
まぁ、確かにいつも手に握られているペットボトルは水かと思いきや安物の焼酎だし、ちょっぴり酒臭い。そうだなぁ、円くなった横山やすし。
デューク更家に似てなくもないかな。
空き缶を満載した自転車と少しだけ饐えたような匂いを放つ黒いスポーツバック。あれさえ無ければ到底ホームレスには見えないよ。
すれ違うスーツ姿の自転車を押すサラリーマン。
アキさんと自転車を交換したらスーツホームレスの出来上がり。
なんだか面白い。
だって、ほんとにその位の違いしかないんだよ。
ホームレス風のサラリーマンとサラリーマン風のホームレス。
ん、何が言いたいのかわかんなくなってきたよ。
なので先に進みます。
とみー、まぁ楽にしてや。そこに座椅子あるから座ってな。 今、ローソク点けるからな。飯の時は5本点けるって決めてるんや。 片側二車線の御池大橋の下はちょっとした体育館みたいだった。
その両岸に各4軒くらいずつ段ボールとブルーシート、廃材木で作られた家が立っている。
広い。 そして、静かだった。 橋の手前で花火ではしゃぐ高校生達も橋の下まではやってこない。 街灯の光も橋の下まではやってこない。 真っ暗だった橋の下をローソクのオレンジ色の光がぼんやりと照らしだす。
それでも遊歩道を歩く人の顔までは判別出来ない。
蛍光灯よりはずっと暗いけど、ずっと暖かい光。
なんだか、ここに合っている気がする。
余計なモノを見なくてすむ。
見られなくてすむ。
車も通れる幅の広い遊歩道から一段高くなった緩い傾斜の上にアキさんの家はある。は僕はてっきり家の中で食べるのかと思ったけど、アキさんは家の前のテラス席に僕を誘った。
いやぁー腹へったぁー食べよ食べよ。
ブンちゃんも早う帰ってたら旨い寿司食えたのにな。
とみーなんか飲むか?酒は呑めんのやろ?
あ、大丈夫だよ。水筒にお茶残ってるから。
そうか、どんどん食べてな。とみーの好きな穴子もあるしな。
マグロ、イカ、脂の乗ったサーモン、タイ、タコ、ハマチ、海老、鉄火巻き、そして僕の好きな穴子。
アキさん、どれもこれも美味しいよ。
どうもありがとう。
ねぇアキさん、どうして出会ったばかりの僕にこんなに良くしてくれるの?
アキさんは色んな事を話してくれた。
昔の仕事のこと。
ホームレス仲間の事。
極度のアルコール中毒が原因で離婚していること。
奥さんのこと。
子供達のこと。
話しながら、アキさんお酒一滴も飲まなかった。
僕には薦めるのに、自分は寿司を食べずにパンを食べていた。
机の上にあった大きなビニール袋の中には沢山の弁当やパン、紙パックの牛乳。
それが賞味期限が切れている事くらいわかる。
あーこれ全部たべられないなぁ。ほかさなきゃ・・・いや、棄てなきゃあかんな。
アハハ、アキさん大丈夫☆直さなくていいよ。関西弁慣れてるから。
やっぱり気を遣ってたんだね。
人と人が理解し合うのってそんなに難しいことじゃないんだ。
でも、相手が察してくれるだろうなんて思っちゃ駄目。
だからいっぱい話そう。
一緒に飯を食おう。
目の前の人は、
「橋の下のホームレス」
なんかじゃない。
皆と同じように物を食べて、寝て、子供が居て、奥さんが居て、色んな悩みを抱えて、毎日を生きている。アキさんという僕の父親と同い年の男性。
うちの親父と何一つ変わらないんだよ。
僕は何が言いたいんだろ?
よく解んない。
ただ、どんなに理解しよう、理解したいと思っても「越えられないもの」「越えさせてくれないもの」があるのかもしれない。
アキさんの家と遊歩道の間の緩やかな傾斜。
ほんの一歩足を踏み出せば互いに行き来できるのに。
きっと、そこには見えない壁がある。
誰でもいけるんだよ。
たまたま僕の父親ではなくてアキさんだっただけ。
川面を撫でる涼しい風が、ローソクの炎を揺らす。
不思議なくらい静かな時間が流れる。
シャツの背中をびっしょり濡らしていた汗もあらかた乾いていた。
とみーもシャツ脱げや。
風がキモチえぇーで☆
なんであの時脱がなかったんだろう。
きっと、壁を越えなかったのは僕だ。
そっち側に行くのを拒否してたんだ。
アキさんには全部分かってた。
あれ?ほんとに僕は何がいいたいんだろ。
僕の出会ったアキさんは優しくて、寂しくて、ちょっぴり酒臭くて、不器用だけど必死で誰かとの繋がりを守ろうとしていた。
俺はここにおるんや。
気付いてくれや。
必死でそう言ってるみたいだった。
とみー気ぃ付けて帰りぃ。またな。
帰り道、川床で夕涼みをする人達をぼんやり眺めてみた。
きっと高い寿司でも食ってるんだろうな。鱧かな?
ねー上の人達☆川床も良いけど、橋の下で食う寿司も悪くないよ。
そう思った。
そこに行かなきゃ見えない景色があって、判らないことがある。
テレビやインターネットから与えられる情報じゃなくて、自分の足で、自分の耳で目で、時には舌で。
自分にとっての「本物」を探して生きたい。
だから僕等は旅を続けよう。
長々お疲れ様でした。m(__)mナイス根性☆
23:38 | 店主 | その他