ちょっと未来の旅する本屋。少しフィクションなお話。
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街に着いたら、先ずは今夜の宿を探します。
ゲストハウスや素泊まりの安宿。
ネットカフェ。 静かな公園や街外れの河川敷、市民会館の軒下、季節外れのキャンプ場。
人ひとり、一晩横になれる場所なんてどこにでもあるんだよね。
素泊まり1900円。
清潔なゲストハウス。すぐ近くに銭湯もあるんだって。
よし、ここに決めた。
とりあえず、トレーラーを宿に置いて、自転車で街を散策します。
人の流れ、賑わっている場所、お客さんが居るであろう、書店、図書館の場所、人の流れ、路上ミュージシャンや露天商の居る場所は無いか。地元の人に声かけて、情報を貰います。
けして大きくはないけど、明るく活気のある商店街。
セレクトショップや輸入雑貨屋、カフェがあるのもイイ感じです。
定休日の店を発見。
二階は住居ではないみたい。
ここにしよう。
宿に戻りトレーラーを引いてきます。
自転車との取り付けはワンタッチ。
特注のトレーラーは重心が低い小径のタイヤで100キロ近い本を載せても安定して走れます。
幅は車椅子よりも小さく取回しも嘘みたいにスムーズ。
「トランスフォーム!」
左右の扉を開けると中には3段の本棚。扉はそのままテーブルになり、POPのついた放浪書房のオススメ本を平置きにします。
後ろの折り畳み式の棚にも新刊書やミニコミを面出し。
サドルを外してポストにポールを指す。
先端にタペストリーを引っ掛ける
「旅の本、あります。」
あっという間に、「移動式トレーラーブックストア」がオープン☆
スナフキンのバルーンを膨らませていると、子供達が集まってきました。
「何、これー!?」
「変なの!」
「知ってる!見たことある!ムーミンのだ!」
「あら、スナフキンね。本を売ってるの?」
子供達に釣られて、大人のお客さんも集まってきました。
「深夜特急、読んだなぁ」
「全部、旅の本なんだ?」
「お兄さん、旅人なの?」
「お初にお目にかかります。自転車で旅をしながら旅の本を売り歩く、自転車移動式の旅本専門店の放浪書房と申します」
「子供向けの本はないわよね?」
「ありますよ☆」
自転車の荷台は広げると木製の小さなテーブルになります。
その上に載せた小さな革トランクを開けると、中には明らかに旅の本ではない、絵本、児童書、文庫や単行本が。新刊も入っています。
「ママなんて書いてあるの?」
「一生の一冊?」
「はい」
「うわぁ、カワイイ」
女の子が絵本を取り出してページをめくります。カラフルで楽しいイラストに、顔がぱあっと明るくなります。
お母さんは女の子に物語を読んで聞かせはじめました。
他の子供達も一緒に覗きこんでいます。
ワクワクしたり、ドキドキしたり、声出して笑い出したり、子供達の声に釣られて次々にお客さんがやってきます。
夏休みにインドに行くというお兄さん。
旅話をしてくれるおじさん。
いつか旅に出たいという携帯ショップのお姉さん。
沢山のお客さんの元に本達が次々に旅立ちます。
パチパチパチパチ☆
子供達の小さな拍手が起こります。どうやらお母さんの読み聞かせが終わったみたい。
「楽しかったね☆この本欲しい?」
「うん!」
「お値段ついてないみたいだけど、、、お幾らですか?」
「幾らでも☆」
「え?」
「このトランクの本達は特別で、子供にしか売れないんです。
今、社会で活躍してたり、素敵な仕事や生き方をしている色んなオトナの人達が、子供達の為に提供してくれた本達で、
その人達の人生を変えてくれたり、豊かにしてくれた“一生の一冊”なんです」
キョトンとしている女の子に声をかけます。
「お代は幾らでもいいよ。キミが決めてね。物々交換でもイイし、お代の代わりに、歌唄ってくれてもイイよ(笑)」
女の子はお母さんと顔を見合わせて、クスクス笑いだしました。
「どうしよっか?いくらにする?ユウちゃんのお小遣いで買う?お歌でもいいってよ☆」
「ただし、一個だけお願いがあるんだ。この本を提供してくれた人に、どんなコの元に本が旅立って行ったか、教えてあげたいんだ。
メッセージをくれないかな?お兄さんが質問するから、それに答えてくれるだけでいいんだ」
「どうする?ユウちゃん、ちゃんと答えられる?」
最初はお母さんにしがみついてモジモジしていた女の子も、決心したらしいです。プリキュアのピンクのお財布を取り出しました。
「……この本ください☆」
小さな掌には、ちょっと汗ばんだ100円玉が3枚。
「どうもありがとう!大切にしてあげてね。いい旅を☆」
「うん!!」
この日一番のいい笑顔。
放浪書房からまた一冊、旅立ちました。


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