タゴサク
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タゴサクどこ?この電車止まるのぉ!?
            時計は夜の12時近く。
その乗り換え駅で僕は先発する特急を待つ停車中の下りの鈍行電車に乗っていました。
終電に近いその車内は人影も疎ら。
シートに座る事も出来たけど、上りの最終は今出たばかり。下車駅を寝過ごしたらアウトです。
扉両脇のスペースに立って発車するのを待っていました。
バタバターッと階段をけたたましく駆け降りる音がして、顔を上げると目の前には息を切らした凄い形相の女性が立っており、僕に向けて何事か喋っています。
〇☆※〒!☆∞@〇!?
さっぱり分からない。
よくよく聞いてみると、その中国系であろう女性は同じフレーズを連発しています。
何?タゴサク??タゴサク?に停まるかって?
脳みそは必死でタゴサクに当てはまる漢字を探しますが、該当件数0。
要領を得ない彼女はもっと要領を得ない僕に苛ついたのか、何やらケータイ片手にホームをウロウロし始めます。
あ、もしかしたら「タカサゴ」じゃないかな?
助け船を出してくれたのは僕の向かいに立っていたおじさん。
タゴサク→タコサゴ→たかさご→高砂・・・あー☆高砂ね!!
スッキリスッキリスッキリ〜☆なんてIQサプリやってる場合じゃない!!
それじゃホームが違うよ!上り方面電車は向こうのホーム!(´Д`)/
僕が指射すのが先が彼女が階段をかけ昇るのが先か、脱兎の如くとは正にこの事。目線の先には上りホームで駅員に
タゴサクどこ!?タゴサクどれ乗る!?タゴサク停まるか!?
と激しく詰め寄る彼女が見えます。
あれ?上りの最終ってもう出たんじゃないかな?
とはさっきのおじさん。
あ!そうですよね!もう終電出ちゃってますよね?!
その駅から高砂までは30分以上。私鉄の終電が出てしまった今の時間はJRに乗り換えて近くの駅からタクシーに乗らなきゃいけない。どうするのかな彼女?
おじさんと二人、彼女の行く末を心配します。               僕も昔はよく終電を逃し、寝過ごし、知らない駅の証明写真の機械の中、コンビニの雑誌コーナーで朝を迎える事も一度や二度じゃありませんでした。
でもね、やっぱり見知らぬ土地、不自由な言葉の中で一人夜を明かさなきゃいけないとしたら、凄く心細いんだろうな。
そう思いながらも、心の中では不謹慎にも彼女を羨ましくも思うのです。               言葉も通じない、知らない町で電車も無くなり、途方にくれる。                   どこで夜を明かそうか、それとも歩けるとこまで歩こうか。不安で一杯だけど限りなく自由。                  いつかの旅を思い出します。                       恐山に来たものの、日が暮れて山を下りるに下りられず、駐車場のベンチで硫黄の匂いとカラスの鳴き声に包まれながら恐る恐る眠りについた夜。                  四国の田舎駅。地元暴走族がロータリーで集会。木刀の試し切りをする中を寝袋抱えて近くの公園まで逃げこんだ夜。   
                不安で心細くて、でもとんでもなく自由な夜。                           彼女大丈夫かな?誰か頼れる人がいるのかな?               人の良さそうなおじさんは窓の外を見ながら心配そうに呟きました。                             きっと大丈夫ですよと、無責任な僕。                   遠くに幕張の街の明かりが見えました。                              じゃあお先に。僕はここの駅だから。君も寝過ごさないように気を付けて帰りなさい。
            はい☆ありがとうございます。お気をつけて。お休みなさい。
またどこかで。
はい。またどこかで。
タゴサクが運んだ2駅分の出会い。
ここ最近では最大級の「旅誘い」の夜でした。
8:58 | 店主 | その他